― AWS/Ubuntu 22.04/CLAIMの壁 ―
はじめに
オープンソース電子カルテ openDolphin を用いた PoC(概念実証)として、AWS上に構築した ORCA との連携(CLAIM接続)を試みた。
結論から言えば、
今回の構成では openDolphin と ORCA の連携は見送りとした。
ただしこれは「失敗」ではなく、
技術的に確認すべき点をすべて確認した上での判断である。
本記事は、
その過程を 記録として整理したものであり、
同様の検証を行う人への参考、
また医療IT理解のための資料として残すことを目的としている。
検証の前提条件
openDolphin 側
- Windows Server 2022
- サーバ/クライアント同居構成
- PoC用途(本番想定なし)
ORCA 側
- AWS EC2
- Ubuntu 22.04 LTS(Jammy)
- ORCA公式手順書(Jammy版)に従って構築
- 診療データは自分自身のテストデータのみ
目標
- openDolphin と ORCA を CLAIM(8220/8221)で疎通確認
- 本格連携ではなく「疎通レベル」での確認
まず結論
- AWS上の Jammy ORCA では、CLAIM受信が有効になっていなかった
- openDolphin は実質的に CLAIM前提設計
- 今回の ORCA 構成では、後付けで CLAIM を有効化するのはリスクが高い
- よって openDolphin PoC は ORCA 非連携で進める という判断に至った
実際に起きたこと(技術的事実)
CLAIM疎通確認
nc -vz <ORCA_PRIVATE_IP> 8221
結果:
Connection refused
- ネットワーク到達性はある
- しかし ORCA 側で 8221 が LISTEN していない
CLAIM設定ファイルの不存在
ls /etc/jma-receipt/claim/
結果:
No such file or directory
- 従来の ORCA(CLAIM前提構成)で存在するはずのディレクトリがない
jma-receipt パッケージの不在
apt-cache policy jma-receipt
結果:
パッケージ jma-receipt が見つかりません
- 旧来の CLAIM 前提 ORCA パッケージ体系ではなかったことが確定(自分のローカルPCで構築したVMのORCAとは違った)
「同じ Ubuntu 22.04 なのに違う」問題
ローカル VM 環境では、
- Ubuntu 22.04 Jammy
- ORCA × CLAIM
- RSBASE 連携
が成立している。
一方、AWS では成立しない。
違いは OSのバージョンではなかった。
違いの正体:Ubuntuの「育ち方」
整理すると、差分は以下だった。
- ローカルVM
- ORCA推奨の Ubuntu インストーラ
- ORCAが暗黙に前提としている環境が揃っている
- AWS
- AWS公式 Ubuntu AMI
- クラウド最適化・最小構成
- ORCA側が想定していない初期状態
加えて、
ORCAから公表されているが、「CLAIM非前提」の構成が標準になっているという背景もあるのだろうか。
CLAIMを無理に有効化しなかった理由
理論上は、
- 旧来の ORCA リポジトリを追加
- CLAIM関連パッケージを導入
という道も考えられる。
しかし今回は以下の理由から見送った。
- ORCAを壊すリスクが高い
- PoC環境とはいえ、検証対象が変質する
- 「できるかどうか」ではなく「判断材料を集める」段階だった
openDolphin PoC のスコープ再定義
今回の判断を踏まえ、
openDolphin PoC のスコープを以下に再定義した。
In-Scope
- 受付(来院の表現)
- 診療録作成
- 院内オーダ入力
- 基本マスタの考え方
Out-of-Scope
- ORCA連携(会計・請求)
- RSBASE連携(画像・検査結果)
- 実運用・本番想定
このPoCの位置づけ
今回の検証は、
- openDolphin を「導入する/しない」を決めるためではなく、電子カルテとは何か。医療情報システムはどう分業されているか、を理解するための PoC である
という位置づけに切り替えた。
特に私が所属する法人では、
- 「電子カルテ=全部入りシステム」
- 「ORCA=電子カルテ」
といった誤解が多く、
このPoCは 勉強教材として非常に有効だと判断している。
次のステップ
- openDolphin PoC を 教育用途として活用
- 電子カルテ/レセコン/検査/画像の役割分担を整理
- 本格開発は openEHR を前提に再検討
CLAIM連携については、
「今やらない」だけであり、
「不要」と判断したわけではない。
おわりに
今回の検証で一番大きかったのは、
できる/できないを切り分け、
無理に進まない判断ができたこと
だと思っている。
医療ITは、
技術そのもの以上に 前提条件と設計思想が支配的だ。
この記録が、
同じ場所で悩む誰かの参考になれば幸いである。